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2009年12月24日
ODAの抜本的見直しを求めて ~満田夏花氏インタビュー~
11月4日、18のNGO/NPO団体が、メコン河流域国への援助政策見直しを求める要請書を政府に提出しました。その1ヶ月後の12月14日には、「事業仕分け」の結果を踏まえて、更に多くの団体と個人が改めて開発援助の見直しを政府関係者求めました。これらの提言書に共通しているポイントは、過去のODAの検証と大規模インフラ事業への無償資金協力の廃止です。今回はこの2点を更に掘り下げて、メコン・ウォッチとFoE Japanで活動している満田夏花さんに話を伺いました。
日時: 12月18日
場所: メコンウォッチ会議室
質問者: 莫カレン(JVC調査研究・政策提言インターン/ODA改革ネットワーク)

莫: まずはじめに、なぜ過去のODAの検証が必要なのか教えてください。
満田: たとえば、ベトナムにおけるODA、道路や運河改修、ダム建設などを考えてみましょう。このようなインフラ事業は、しばしば数千世帯規模の大規模な地元住民の移転や生活の激変を伴います。仮に、ある都市部での道路事業で6,000世帯が移転を迫られたとします。一世帯あたり5人とすると、約3万人の生活に影響を及ぼすことになるのです。もちろん、彼らへの補償金や移転先の確保については、JICAでは事前に確認することになっています。しかし、貧しい人々の移転は、生活の変化を強いられることを意味します。例えば、運河沿いや道路沿いで生計を立てて来た人々が都市計画で郊外のアパートに引っ越しさせられると、彼らは生活の手だてを失うことになってしまいます。
立ち退き問題は、とりわけベトナムやラオスの山岳部に住む人々にとって深刻になっています。ベトナムやラオスの山岳地域では昔から少数民族が20haほどの土地を7年ほどかけて移動焼き畑しながら農業を営み、これに河川で漁業を組み合わせて生計を立ててきました。しかし、日本からのODAなどでダムが作られると、この生活の基盤が崩れてしまいます。まず以前生活していた土地から追われてしまいます。政府からは定耕を前提として、補償として通常1haほどの農地が与えられますが、以前のような移動焼き畑はできなくなります。その上、河川がダムによって消滅し、下流では漁業ができなくなることもあります。その結果、山岳地域の農民は、たとえ現金収入があがったとしても、これまで以上に貧しくなってしまうことがあります。雨期にはダムからの放水で下流地域への洪水被害も生じています。環境への影響も無視できません。私達のODAがこのようなことに使われてはならないのですが、それには過去のODAの検証が重要だと思うのです。
しかし、「開発」という名の下で現地の人々は生活様式を大幅に変えざるを得ず、場合によっては以前よりももっと貧しい状況に追い込まれている実情は実はあまりよく知られていません。というのも、最近はODA供与前や建設前の調査は実施されていますが、建設後のフォローは弱く、さきほど言ったような移転後の人々の生活がどうなっているのかは検証されていないのです。「開発」の負の側面をきちんと把握せずに新しい事業をどんどん進めている現状に、私は危機感を覚えています。
もう一つ私が問題視しているのは、巨額のODAによって援助受け入れ国側の問題解決能力を低下させてしまって、相手国政府が抱えている構造的な問題を温存させているのではないかという点です。
この問題の顕著な事例がカンボジアです。カンボジアの都市部では、民間ディベロッパーによる土地開発と強制立ち退きに抵抗する住民を警察が出動して弾圧するという事件が多発しています。このような暴力的な強制立ち退き行為が国際社会に問題視されてから、既に10年以上経っています。世界銀行やアジア開発銀行(ADB)もこの問題を深刻に受け止めて、ADBはカンボジア国内の移転政策の法整備に乗り出して、2000年と2005年の2回に亘ってカンボジア政府に移転や補償の法制化のための技術支援を行いました。これに対し、カンボジア政府は最終的にはADBの支援の成果を受け入れず、代わりに『収用法(Law on Expropriation)』と呼ばれる法律を制定しようとしています。法案には欠陥も多く、もしこれが制定されれば、貧しい土地所有者(又は占有者)の権利は著しく侵害されかねません。
このようなことが起きる背景に、ドナー国がこれまでカンボジアの土地問題や立ち退きの法制度がととのっていないことに目をつぶって、援助を提供し続けて来たことがあるように思います。厳しい言い方をすれば、我々ドナー国がカンボジアのような国の政府を援助で甘やかした結果、彼ら自身が問題解決しようという自律機能がなくなってしまったのかもしれません。このことを、ドナー国側はもっと考える必要があります。
莫: 先般の日メコン首脳会議では、鳩山首相はメコン流域国に対し向こう3年で5,000億円以上の援助を表明しました。満田さんはこれについて、どこに問題がとあるとお考えですか?
満田: 過去最大規模の円借款事業はパハン・スランゴール導水事業(マレーシア)で、約800億円でした。一般的なインフラ事業は数百億円規模です。5,000億を積み上げるのは小規模案件では不可能なので、自ずと大規模なインフラ案件で積み上げざるをえません。当然、途上国政府も日本企業ももらえる額が大きい方がいいので、小さいプロジェクトを積み上げるよりは、大きいプロジェクトをやりたがります。この結果、3つの問題が起きます。
第一に、必要ないかもしれない事業、或は必要だがまだ実施時期ではない事業にお金が流れる危険性が出てきます。もちろん、全ての大規模インフラ案件が悪いというのではありません。しかし、金額目標達成ありきでODAを効果的に活用できるかどうかは疑問です。本当に必要な案件かどうか、またしかるべきタイミングかどうかを見極めることが難しくなってしまいます。
第二に、このような過開発、急激過ぎる開発は、却って地域に被害を及ぼすケースが多いのです。実際、ベトナム山岳地域や都市部の開発については、ベトナム当局の行政担当者の一部にすら、「やり過ぎた」という認識があるようです。一気に大きな支援が入ったことで開発を急ぎ過ぎることによる弊害も考えなければなりません。
第三に、大規模な援助を急激に行うことは、過開発の成長モデルを途上国におしつけ、それを波及させる効果を生みます。例えば、ベトナムはかつての日本の高度経済成長と同様の急激な成長モデルを達成しようとしています。その発展を支えるべく、日本はベトナムの電力セクターに巨額の支援を行っています。しかし、日本が行う支援は一方で、ダムの乱立による環境破壊や集中豪雨の時の放水による下流域への被害、先に述べたダム建設地の住民の生活への影響など、様々な問題を直接的、間接的に引き起こしていることも事実です。そのベトナムは今度、同じ構図を他国に転換しようとしています。隣国のカンボジアの電力事業に投資してその電力を買うというようなことをしているのです。日本からの資金がベトナム、カンボジアに流れることで、かつて日本で起こっていたのと同じ問題がメコン流域で起きています。
従って、私達は総額プレッジ(援助の総額を予め決めること)で巨額の金額を外交の武器にするのではなく、援助の内容をきちんと見るように政府に求めていきたいと考えています。なお、このような巨額の金額のプレッジによって、外交としての効果が生じているかどうかについては、先日のコペンハーゲンのCOP15のときの例などが示す通りで、私自身は疑問視しています。
莫: 今回の「事業仕分け」についてはどのように見ていますか?また、その後NGO側で何か動きはありましたか?
満田: 事業仕分けについては賛否両論あると思いますが、ODAについて見直す良いきっかけではあったと思います。「ムダ」の排除には共感していますし、額に頼らない「質」の議論に向けた課題が指摘されたことも評価しています。とりわけ、無償資金協力は人間の安全保障に直結する事業にまわし、経済インフラには使わないという結論は重要だったと考えています。このような事業仕分けの結果が出た直後に、カンボジア第二メコン架橋を無償資金協力で支援しようとしている日本政府の方針には首をかしげざるをえません。
莫: 日本のODAがハコモノに集中して来た背景には、日本企業の存在が大きいですよね。外務省は近年、盛んに「官民連携」を押し進めていますし、日本の世論にも「日本の税金を日本のために使って何が悪い」という声が聞かれます。
満田: これは、ODA哲学に絡む問題だと思います。ODAとは本来、公共の資金を使って、相手国社会の健全の発展や福祉の向上をはかっていくべきものです。官民連携が悪いとは言いませんし、企業が公共の分野で果たしていく役割の大きさを否定するものではありませんが、日本企業の海外進出の支援であれば、すでに、JBIC(国際協力銀行)、JETRO(日本貿易振興機構)、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)など、多くの公的機関が存在しています。さらにODAで手厚く行う必要性はないと思います。また、ODAによる日本企業の海外進出支援は、ODAのそもそもの目的を歪めることになる危険性があります。先に述べた理由から、途上国の地域社会に急激にお金が入って行くことが必ずしも良いとは思いません。
海外投融資の再開についても今議論されています。海外投融資の歴史を見ると環境・人権の侵害や情報の不透明性など様々な問題があり、FoE Japan、メコン・ウォッチを含め、NGO側は海外投融資の再開には批判的で、少なくとも再開の是非について公開で議論をすべきとしています。
莫: 今日話を伺った過去のODAの検証を含め、更に具体的な事例を挙げながらODAの問題提起を行うセミナー「検証:ODAを問う
~メコン開発から見た環境と人権への影響」を1月23日に開催するご予定ですね。その概要を少し教えてください。
満田: 今度のセミナーでは、日メコン年の振り返りとして、メコン流域国における過去のODAの検証と共に、農山村地域の人々と自然資源の関係性が持つ「価値」を再認識し、日本のODA政策に反映させたいと考えています。日本のODAはこれまで所得を上げることにばかり焦点を当ててきましたが、所得の向上では評価できない農山村地域の経済というものも存在します。先に挙げたベトナム山岳地域の少数民族の例は、まさしく、所得が増えたにも拘らず生活がますます貧しくなったというケースです。数字で図れない豊かさを数値で図ることの弊害について考えるべき時にあるのではないかと思います。
以上
ご協力ありがとうございました。
投稿者 oda_net : 2009年12月24日 00:39