« 【セミナー報告】検証:ODAを問う〜メコン開発から見た環境と人権への影響〜 | メイン | 援助効果議論の今と日本の果たすべき役割 ~遠藤衛氏インタビュー~ »

2010年01月26日

農薬蚊帳の安全性と効果を問う ~野澤眞次氏インタビュー~

マラリアは、AIDSと結核と並ぶ世界三大感染病の一つで、途上国の子供が感染して死亡するケースが多い病気です。ユニセフをはじめ、世界中でマラリア根絶のための努力がなされていますが、そのうちの一つに、日本企業が開発したの殺虫剤入り農薬蚊帳「オリセット」を配布するプロジェクトを日本のODAを通してユニセフが実施しています。

「オリセット」は殺虫剤を網に練りこむことにより、普通の蚊帳よりもマラリアの感染を予防する効果が高いとされており、官民連携のモデルケースとして評価されています。それに対し、国内外の市民団体は環境や健康に悪影響を及ぼす恐れがあるとして、農薬蚊帳の配布に強く反対してきました。この問題は昨年7月に開かれた2009年度第1回NGO外務省ODA政策協議会でも取り上げられ、大きな反響を呼びました。

今回は、農薬蚊帳配布反対運動で中心的な役割を果たしてきたサパ=西アフリカの人達を支援する会の事務局長を務める野澤眞次さんに農薬蚊帳に話を伺います。

日時:   1月19日
場所:   サパ事務所
質問者:  莫カレン(JVC調査研究・政策提言インターン/ODA改革ネットワーク)

莫:    2009年度第1回ODA政策協議会の報告書で「オリセット」について触れたところ、色々な方からコメントを頂きました。また、その後「オリセット」について取り上げる記事を時折目にするようになり、この問題に関する一般の関心は少しずつ高まってきているのではないかと思います。しかし、メディアから伝わる情報は必ずしも正しくないのではという気もしています。ここで改めて、野澤さんから農薬蚊帳の問題点を教えて頂けますか。

野澤:   私は企業時代から長年熱帯地区で蚊帳を使用して来ましたが、私の経験からすれば、普通の蚊帳で十分蚊除けの効果はあります。その普通の蚊帳を作るコストは大体200円ぐらいですが、オリセットのコストは700円。3倍以上のコストをかけてわざわざ蚊帳に農薬を練りこむこと自体、ナンセンスです。その上、オリセットに使われている農薬のペルメトリンは水生生物への汚染や子供の脳の発達への悪影響など、様々な環境被害、健康被害が指摘されており、EUでは使用が禁止されています。そのような有害物質を含む蚊帳をアフリカの人々に配布する理由がありません。
また、耐性蚊の問題もあります。既に農薬蚊帳オリセットが配布された国々の内、約20カ国で耐性蚊の発生が確認されています。以前WHOが実施したマラリア撲滅キャンペーンでDDTを大量散布しましたが、見事に失敗に終わりました。その原因の一つが農薬の効かない耐性蚊の発生でした。その後DDTの発ガン性や環境汚染が明らかになり、マラリア根絶どころか、途上国の環境と人々の健康に大きな後遺症を残しました。
   更に、オリセットの構造にも問題があります。オリセットは比較的網目が大きく、小さい蚊が通り抜けられるそうです。また、地域によっては、網に練り込まれた農薬の臭いを嫌がって配布されたオリセットを使っていないケースもあるそうです。こうなると、そもそもオリセットが蚊帳として機能していないことになります。

莫:    使われていないんですか!それではODA資金の無駄遣いになりますね。

野澤:   はい。有効に使われていない可能性があります。

莫:    それでは、昨年7月の政策協議会でこの問題を取り上げてから、何か新しい展開はありましたか。

野澤:   私たちはこれまでWHOを中心とした間接的な情報に頼って来ましたが、私は昨年11月と12月にサパの活動地であるギニアビサウに2回往訪して、実際に現地の状況を視察してきました。そこで分かったことがいくつかあります。まず、オリセットの宣伝は、あたかもアフリカでは蚊帳は使われておらず、日本の企業が開発した農薬蚊帳オリセットが現地の人々にとっての救世主であるかのような印象を与えています。私は民間企業に勤めていたころ、東南アジアを舞台に約20年熱帯農業に従事していましたが、どの国でも普通の蚊帳が使われており、死亡者数もさほど多くはなかったと記憶しています。だから、ユニセフやオリセットの開発企業の広報には懐疑的だったのです。今回ギニアビサウに行って、自分の考えが正しかったことをこの目で確かめてきました。写真をご覧頂いてもお分かりの通り、西アフリカではもともと蚊帳を使う習慣があり、どこの村に行っても、ほとんどの農家で普通の蚊帳が吊られていました。<写真1>日中は使用しないので開けっ放しにされていますが、夜寝る時におろして蚊の侵入を防ぐようになっているのです。これで十分効果はあるのです。
<写真1>
IMG_1376.JPG
また、宣伝の中では、マラリア感染による死亡者数が年間100~150万にのぼると一般的に伝えられており、特に子供の死亡者数が高いと言われています。しかし、WHO自身が発表しているデータ(2006年)を見ると、マラリア感染による年間死亡率は88万人で、そのうちの91%にあたる80万人はアフリカ人です。更にその85%にあたる68万人が子供となっています。これは一見大きな数字のようですが、アフリカの人口が9億人を超えているので、マラリアの死亡率は0.07%となる計算です。現地の人々も、マラリアを脅威と感じておらず、蚊帳を使うのは単に蚊に刺されるのを防ぐためとのことです。そして、マラリアに詳しい医者の話では、マラリアで死亡する原因は高熱による脱水症状である場合がほとんどだそうです。もちろん、たくさんの命が失われているので予防の努力は大事ですが、同じ感染症でもAIDSと違って、マラリアは比較的簡単に普通の蚊帳で予防できて、治療できる病気です。死亡者数が年間100~150万人という数値の根拠も曖昧で、このようなマラリアの実態が一般の人たちに正しく伝わっていないのではないかと私は危惧しています。

莫:    なるほど、現地にはそもそも殺虫剤入りの蚊帳のニーズはあまりないということですよね。ちなみに、普通の蚊帳は現地で買えるものなのですか?

野澤:   地元のマーケットで6ドルぐらいで売られています。<写真2>もちろん、そんなお金もないほど貧しい家庭もありますが、その人たちにはユニセフは普通の蚊帳を配ればいいことです。援助する側がもっと現地の人の立場から問題を捉える必要があります。
<写真2>
IMG_1325.JPG
莫:    現地の状況はよく分かりました。話を昨年7月の協議会に戻しますが、その際、野澤さんは外務大臣宛に手紙を出されて、外務省から返答がないことを問題視しましたよね。その後外務省から何らかの連絡はあったのでしょうか。

野澤:   ないですね。実はその後、UNICEFとJICAにも同様の手紙を提出しました。UNICEFは9月、JICAは12月に返信を頂き、どちらも、自分たちは農薬の害を検証する立場にないためWHOの決定に従っているだけだという主旨の回答でした。これは明らかに責任回避です。
それから、この問題についてはJANICが2年ほど前から提言を出す方向で動いており、住友化学に声をかけて企業側の言い分も聞こうとしましたが、12月末に断られたそうです。

莫:    それでは最後に、今後のサパ、及び野澤さんの活動の方向性について話をお聞かせください。

野澤:   ODAネットや他の団体と連携して引き続き外務省や政府関係者への働きかけを行って行きますが、今後は農薬蚊帳の真相を日本国内のみならず、世界の政府及び国連・NGOにも知らせる活動に力を入れて行きたいと思っています。先日もとある会合で講演を頼まれて、この件について触れたのですが、講演後参加者から子供たちの健康を考えているはずのUNICEFがこんなことをしているとは知らなかった、というコメントを多く頂きました。具体的には、農薬の危険性、環境汚染、耐性蚊の問題をご理解の上、農薬蚊帳から安全な普通の蚊帳への切り替えを早急に実現できるよう、皆様のご支援を賜りたく期待しています。


以上
ご協力ありがとうございました。

投稿者 oda_net : 2010年01月26日 18:04

コメント