2009年11月13日

援助効果欠如のコスト

EU諸国が援助効果に関するパリ宣言で謳い上げた5つのコミットメント(オーナーシップ、アラインメント、調和化、成果マネジメント、相互説明責任)を実行に移さない場合に生じるODAの無駄は、年間約30億から60億ユーロ(約4兆から8兆円)にも上る。

そんな試算が、欧州委員会の報告で明らかになりました。

上記報告書によると、EUのドナー国が2007年に調印したODAプロジェクトは22,000件。これをEU全体ODA予算で割ると、1件あたりの平均予算は約70万から100万ユーロ(約7000万円から1億4000万円)となります。しかし、この内の約14%はプロジェクトの調査、形成、承認にかかるコストで、ドナー側の官僚やコンサルに支払われるそうです。報告書では、ODA予算を途上国政府の財政支援に回せば、この分の無駄、約20億から30億ユーロ(約2.7兆から4兆円)、をカットすることができるとしています。

また、報告書では紐付き援助についても触れられており、「紐付き」になることでコストが15から30%も上がるそうです。EU諸国における紐付き援助のODA全体に占める割合が平均約10%であると言われており、この結果、約5億ユーロ(約670億円)の無駄が生じているとのことです。

参考資料


こうした数値を用いた「援助効果向上」のメリット分析は、非常にわかりやすく、説得力があるように思います。JICAが実施するプロジェクトについても、きちんとこのようにコスト面から検証する必要があるでしょう。しかし、残念ながら、こうした援助効果向上に正面から取り組んでいる欧州とは対照的に、日本では援助効果向上に関する議論すらあまり為されていないのが実情です。

投稿者 oda_net : 16:31 | コメント (0)

2009年10月27日

官民連携の是非を問う

【わかる!国際情勢 外務省】「農地争奪と食料安全保障」

【食料「新植民地主義」】政府:海外農業促進で指針-中南米・東欧などの環境整備へ
「食料安全保障のための海外投資促進に関する指針」

【日本経済新聞】原発産業の海外進出支援 経産省、部品など技術開発補助

【週刊東洋経済】水ビジネスを深耕へ、沸き立つ総合商社

【フジサンケイ】日立など国内38社の協議会、4カ国に調査団 111兆円市場 水ビジネス強化

【厚生労働省】ODAで水道産業の国際市場への進出を支援

【讀賣オンライン】ODA80億円「ムダ」、比の浄水場建設など

【フジサンケイ】「アジアの活力取り込め」 経団連提言 インフラ開発推進

【日本経団連の新提言】 アジアの広域インフラ開発のための円借款迅速化と無償資金投入(ODAの抜本的見直し)を要求
「危機を乗り越え、アジアから世界経済の成長を切り拓く」

日本経団連はこの間、執拗にアジア経済成長のための広域インフラ開発(水資源関連含む)とそのための「円借款の迅速化」「官民連携の推進」を求めてきましたが、ついに「広域インフラ整備に向けた足の速い大規模な無償資金」投入まで主張し始めました。

 これが無償援助を大規模インフラ建設のために使うということなら、国民の税金を直接、ODAプロジェクトを受注する日本企業に注ぎ込もうというものであり、なおかつ、無償援助は「タイド=ヒモ付き」案件であることから、必然的に日本企業のための「援助」となってしまいます。

「広域インフラ案件を進めるためには、当面、円借款の執行の迅速化などその制度の改善を図る必要がある。しかし、円借款はアジア諸国の卒業、迅速さの欠如 #23 等、時代の要請に十分応えられなくなっている。中期的には、広域インフラ整備に向けた足の速い大規模な無償資金が投入できるよう、わが国ODAを抜本的に見直すべきである」

また、「官民連携」の推進によって「具体的には、インフラ部分の建設、調達、整備をODA等の公的資金で賄い、民間がその事業運営等を担う仕組みを設ける必要がある。そのためには、民間による資源開発案件やPPP (Public Private Partnership)に係る事業権取得の申請を被援助国政府のODA要請と直接結びつけるスキームの構築が求められている」と、個別の日本企業の提起する事業案件に直接ODAを使えと要求しています。

投稿者 oda_net : 08:48 | コメント (0)

2009年07月25日

G8ラクイラサミット共同声明に対する国際市民社会の評価

去る7月13日、イタリアのラクイラで開かれたG8サミットは、大方の予想通り、開発分野において、何ら新しいイニシアティブも、目覚ましい成果も上げることなく、閉幕した。

今回のサミット共同声明に盛り込まれた開発に関する主な内容は以下の通りである。

・現下の世界的な金融・経済危機と気候変動が途上国の開発発展の大きな阻害要因となっていることを確認。
・各種コミットメントの説明責任(Accountability)を強化し、具体的な方策を検討するための作業部会の設置に合意。
・食料安全保障確保のため更なる行動を取る飛鳥性を確認し、持続可能な農業開発のために3年間で200億ドルの資金援助を行う意向を表明。(日本政府は30億ドルの支援を行う旨を表明。)
・MDGsの達成に向けて、各国の取り組みを強化する必要性について再認識。(日本は特に保健分野における保健システム全体の強化を強調。)
・各種開発課題に取り組む上で、特にアフリカ諸国への支援の重要性を確認。(日本は人材育成の重要性を強調。)

上記の結果に対し、国際市民社会は一応に厳しい評価を与えているが、その中で、債務と開発問題を扱う欧州のNGOネットワーク、European Network on Debt and Development (EURODAD)の声をご紹介したい。

The 2009 G8: what has been achieved on development and finance?

まず、サミットの共同声明全体について、あるEURODADメンバーは、「多くの善意と具体性のない表現を含んだ」内容だと評し、別のメンバーはG8を「自らに課した目標を達成できない、時代遅れのものとなった」と結論付けた。

続いて、今回のサミットの一つのキーワードとなった食糧安全保障の問題については、200億ドルの拠出元が明確にされていないことを指摘した上で、実際に「2015年までに飢餓を半減させる」MDGを達成するには毎年およそ230億ドルが必要との調査結果も出ており、G8のコミットメント額は到底十分ではないとを指摘した。また、多くの途上国で深刻な問題となっている食糧価格の高騰の一因とされる投機マネーを規制するどころか、「投機マネーの更なる監視と調査」を行うと表明したに留まり、従来の市場開放主義を固持した点についても批判した。

G8のアフリカへの援助コミットメントについては、議長国イタリアが援助を倍増させるどころか半減させてしまったことに代表されるように、常に蔑ろにされてきたとG8各国の対応を非難した。G8 Preliminary Accountability Reportに対しては、そのような成果物が作成されたこと自体は評価しているものの、その信憑性については懐疑的だ。その根拠の一つとして、4年前に出されたアフリカ援助倍増計画に対し、150億ドルも不足している点がレポートから抜け落ちていることが上げられる。

更に、EURODADは、議長国イタリアが一国の貢献度を総合的に評価する"Whole of Country"アプローチを提示して、政治的な協議を援助目標から逸らそうとしたことについても触れ、共同声明に盛り込まれた記述は通り一遍の表現で内容に欠くと批判した。例えば、G8は"Whole of Country"分析が「政府援助や援助以外の政策、民間セクターと市民社会の努力など様々な要素をカバーする」と謳っているが、その中に途上国からの資本流出が含まれていないことが指摘された。

気候変動へのG8の対応について、EURODADは、バン・キムーン国連事務総長同様、G8が2050年までの長期目標だけでなく、2020年を目処にした中期目標を策定する必要があると主張した。また、温暖化ガス削減のベースラインが「1990年、またはそれよりも最近の年」と、極めて曖昧になっていることについて、「関係者全員に受け入れられるようにした結果、コミットメントそのものが全く無意味なものとなった」と評した。

最後に、EURODADは「G8不要論」に触れ、「イタリア政府は今回のG8サミットに4億ユーロを費やしたのに対し、2009年の国際援助予算は、わずか3.21億ユーロ」との比較を引用し、G8はサミットにかかる費用はより良い政策や支出を生み出し、世界中の人々に役立つための投資だと主張するが、果たしてそうだろうかと疑問を投げかけた。

投稿者 oda_net : 10:16 | コメント (0)

2009年06月12日

新興国ドナーによるの開発援助をどう捉えるべきか

2005年のパリ宣言以降、先進諸国の援助の質的向上を求める国際市民社会の声は少しずつ、各国政府の政策に反映されるようになっていました。しかし、その一方で、中国などの新興国が後発途上国に対する支援と影響力を大幅に拡大させたことで、新たな課題が発生しています。

6月4日の英エコノミスト誌はその一つの側面に焦点を当てた記事を掲載しました。
Development aid from authoritarian regimes:An (iron) fistful of help
http://www.economist.com/world/international/displaystory.cfm?story_id=13799239

この中で、同誌は中国、イラン、ロシア、ベネズエラ、そしてサウジアラビアなどの「独裁国家」による開発援助の総出資額が年間約100億ドル(2007)に達しており、そのほとんどが自国への政治的、経済的な利得のためのものだと指摘しています。これにより、途上国の悪いガバナンスが助長され、民主化が後退するだけでなく、西欧諸国の影響力(ソフトパワー)の減少にもつながると警鐘を鳴らしています。

これとは別に、開発の視点から、中国、韓国、サウジアラビアなどの自給率の低い国々が、自国の食糧安全保障のためにアフリカなどで農業地確保に乗り出していることも問題視されています。土地の収用の仕方は、援助のほかにも民間直接投資や途上国政府経由などと、様々な形態をとることがあります。いずれにしても、土地の所有者やローカルコミュニティーのアクセス権が不当に奪われたり、期待されたように雇用が生まれず、貧しい生活がが更に脅かされたりしている現状があります。詳しくは、今年、IIED、FAO、IFAの共同レポートをご参照ください。
http://www.iied.org/pubs/pdfs/12561IIED.pdf(英文)

これまでODAネットで取り組んできた「出資国の都合ではなく、途上国の人々のための支援」がここでも阻害される恐れがあります。ODAネットは今後も積極的にこの問題提起を発信していきたいと考えております。

投稿者 oda_net : 16:19 | コメント (0)

2009年05月21日

アジア・ヨーロッパ会議(ASEM)〜市民社会の宣言〜

2009年4月20〜21日、フィリピン政府と欧州委員会が主催となって、ASEM開発会議:持続可能な開発に向けて(ASEM Development Conference: Toward Sustainable Developmentがマニラで開かれました。これに対し、Reality of Aid(ROA)は市民社会を代表して声明を発表しました。
Statement on the ASEM Development Conference: Towards Sustainable Development

(Statement on the ASEM Development Conference: Towards Sustainable Developmentの概要については記事「アジア・ヨーロッパ会議(ASEM)〜持続可能な開発に向けて〜」をご参照ください。)

この中で市民社会は、これまで各国政府と国際機関が採って来た政策と北京宣言に盛り込まれた目標とが矛盾していることを指摘しています。とりわけ、世界的に経済が低迷し、モノとカネの流れが著しく停滞している中で、国際貿易と投資の自由化と経済活動の規制緩和が引続き推進されていることを問題視していています。自由化の結果、産業大国の農業、工業、サービス、そして金融の各セクターが利益を求めて途上国の市場に押し寄せ、地元の経済や社会の発展を押しつぶしてしまうことを懸念しています。現に、今ASEMのパートナー政府間で協議されている二国間、または地域間の自由貿易協定(FTA)は、安定的な雇用と所得の向上を目指すのに必要な条件の創出と醸成の妨げになっています。更に、市場開放により、マクロ経済政策の効果が薄れるという問題も発生します。そして、途上国に市場開放を押し付けた張本人たちが、もしその逆の保護主義に走ってしまったらなんとも痛ましいことかと、皮肉混じりに経済危機に対する先進国の対応を非難しています。

また、今日の経済危機により、途上国が開発目標を達成に向けて越えなければならないハードルはますます高くなっているという現実を認識しなければないと、市民社会は主張しています。その上、世界的な経済危機の下で、各国が直面している問題はそれぞれ異なっており、それに対処するための政策も多様です。国内の景気対策が国際開発目標とが対立する恐れもあると、警鐘を鳴らしています。

更に、声明文は、EU諸国が約束した援助額の拠出にも懐疑的です。EU諸国は国内の景気刺激策として巨額の公共投資や金融機関、民間企業の救済を打ち出していますが、これらあによって、援助資金が圧迫される可能性があります。

援助効果についても、声明文はドナー国の対応に大変批判的です。これまでも、債務を抱え、政治的影響力の弱い途上国の政府が、国民に対してではなく、支援国や資金提供者に対してアカウンタブルな開発戦略を立ててきましたが、これからはますますそのような傾向が強まる可能性があります。市民社会は支援国が条件付き援助やひも付き援助によって自分たちの利益を最大化しようとするのを警戒しており、巨額の大規模インフラプロジェクトへの出資を控えるよう呼びかけています。

最後に、声明文は、ASEMメンバー政府が経済、金融、貿易、開発の各方面において、一貫した、そして開発方針の核心を押さえた政策を採って行くよう提言しています。 そして、包括的、効果的、持続可能な開発を実現するためには、パートナー政府が市民を主体とする民主的なオーナーシップを実行に移し、マルチステークホルダーと真摯に対話し、実質的な共同作業を進めて行かなければならないと結んでいます。

投稿者 oda_net : 18:59 | コメント (0)

アジア・ヨーロッパ会議(ASEM)〜持続可能な開発に向けて〜

2009年4月20〜21日、フィリピン政府と欧州委員会が主催となって、ASEM開発会議:持続可能な開発に向けて(ASEM Development Conference: Toward Sustainable Development)がマニラで開かれました。これは、昨年10月24〜25日に北京で開かれた第7回アジア・ヨーロッパ会議(The Asia-Europe Meeting, ASEM)で採択された北京宣言のフォローアップとして開かれたもので、会議には、アジア13カ国、ヨーロッパ16カ国、欧州委員会、8つの国際機関と10個の市民社会団体が参加し、ミレニアム開発目標(MDG)、気候変動、そして社会の結束という3つのテーマについて、政府高官と専門家による意見交換がなされました。
ASEM Development Conference: Joint Chair's Statement

会議ではMDGについて、アジア諸国の目標達成度合いが項目や国ごとに大きくばらついていることが指摘されました。また、現在の経済危機が目標の達成を脅かす可能性についても議論が交わされ、各国政府が社会予算を確保し、それが良いガバナンスの元で効率的、効果的に使われる必要があると強調しました。

注目すべきは、各国の開発発展の達成は各国自身の責任であることが改めて強調された点です。併せて、国際社会はMDGの達成が可能になる環境を整え、各国に協力することが重要である点も指摘されました。参加者らは、各国の状況を踏まえた国レベルでのMDG達成プログラムが極めて重要な役割を果たすという認識で一致しました。

会議では更に、気候変動がもたらす課題とそれが持続可能な開発とMDGの達成に与える影響について議論がなされました。主なテーマとして、気候変動問題の緩和、適応、技術移管、そして資金調達が取り上げられました。また、国際社会で交渉が進んでいる温暖化ガス排出削減に関する問題についても議論がなされました。今日の世界的な経済危機については、リスクマネジメントの重要性を再認識する契機であると同時に、新たな雇用を創出し得るグリーン経済への投資のチャンスでもあると認識しています。

参加者らは気候変動が、貧困と格差とに並ぶ緊急な対応を要する重要課題であるという認識でも一致しました。先進国と発展途上国のが連携をとりながら共に自らのコミットメントを果たすことが重要だとしています。

また、今日の世界的な不況を受けて、逆境に強い発展を遂げるためには社会の結束と調和が必要不可欠であるという見解が出されました。アジア諸国の中には経済成長を遂げた一方で、市民社会のグローバル化、社会的公正、雇用の促進、国際的な人材流動、高齢化、都市の環境対策、そして企業の社会的責任などの方面で問題を抱えているケースが多いと認識しています。これらの問題を解決するためには、格差是正の政策を講じるともに、各ステークホルダーの交流によるイノベーション、参加型政策、キャパシティー向上の実現が必要としています。

現在の経済危機そのものが社会の結束と調和に与える影響について、参加者らは各国の経済が不安定な状況に陥り、これまでの開発努力が妨げられ、場合によっては政治不安をも引き起こした事実を認めた上で、今後経済危機の二次的な影響が途上国と先進国の双方に及ぶことを懸念しています。しかし、危機に直面した国の中には、これを社会の結束を高めるチャンスと捉えた国もあり、こうした国は社会保護スキームの構築に取り組んでいます。このような分野に置いては、ASEMパートナー間での情報交換が役立つだろうと参加者らは考えています。

最後に、援助効果向上について、参加者らはMDGの達成と気候変動への対応のためには援助額の引き上げが必要だという認識で一致しました。EU諸国は2010年までにODA額を国民総所得(GNI)の0.56%、2015年までに0.7%に引き上げる決議を再確認しました。援助資金の量の向上と共に、援助の効率と効果を上げ結果をきちんと出すことも重要であるとの見解にまとまりました。

以上の報告に対する市民社会の提言については記事「アジア・ヨーロッパ会議(ASEM)〜市民社会の宣言〜」をご参照ください。

投稿者 oda_net : 18:52 | コメント (0)

2005年10月19日

【東京】インドネシア・ビリビリ・ダムの現地住民からの訴え

インドネシアのビリビリ・ダムは日本の円借款によって300億円ほどの予算で2001年11月に完成されました。洪水防御・灌漑・発電・都市用水を目的としたダム建設でたが、このダムが出来たことによって森林伐採、水没、また住民移転などの問題が起こりました。
 
ダム建設以前は、現地住民は水田で育てた米や魚を地元の市場で販売するなどして、日々の生活に不自由することは無く、暮らしを営んでいました。しかし、ダム建設によって住民は移転を余儀なくされましたが、移転先の土地は貧弱で、また十分な補償もなく、彼らの生活は困難なものになってしまいました。

先日、ビリビリ・ダムのあるスラウェシ島から、このダム建設による被害者でもある現地住民のライスさんが来日しました。9月27日には上智大学にて「ビリビリ・ダムから日本のODAを考える」と題して勉強会を開きました。勉強会で繰り返し彼が述べていたことは、「日本には文句を言いに来たのではなく、日本の人たちにこのビリビリ・ダムで現在起こっている問題を知ってもらい、一緒に考えるためである」とのことでした。日本政府、関係省庁・機関の真摯な対応が求められます。

ODAネットでは、今後、このODAプロジェクトに関する情報を掲載していきます。以下の資料を是非ご覧下さい。

こちらをクリックするとダウンロードします。

ビリビリ1.bmp

投稿者 oda_net : 10:59 | コメント (0)

2005年09月07日

日本の「対アフリカ開発支援」を読む!!

2005年7月にイギリスで行われたG8サミットにおいて、日本政府は「対アフリカ開発支援」を発表しました。詳細はコチラでご覧になれます。

これに対してODA改革ネットワーク・東京では、FAQ(Frequently Asked Questions)を作成し、この開発支援策を分析しましたのでご紹介させていただきます。

日本政府の対アフリカ開発支援に対するFAQ
Q1.TICADって何でしょうか?またTICADの経験って何ですか?
Q2.「オーナ-シップ」は「自助努力」というよりも民衆や市民社会の参加という考え方が中心になるのではないでしょうか?
Q3.このメッセージはアフリカの誰に向けたものでしょうか?また、誰がこのメッセージで幸せになれるのでしょうか?
Q4.我が国にふさわしい十分なODAの水準」とは具体的にどのような水準なのですか?また、「ODA事業量の戦略的拡充」とは具体的にどのようなことを言っているのですか?
Q5.債務削減することによって貧困削減は本当に可能なのですか?
Q6.マラリア対策に「殺虫剤が浸漬した蚊帳の配布」とありますが、殺虫剤の安全性に問題はないのでしょうか?
Q7.当面の5億ドルとは総額50億ドルのうちの5億ドルですか?
Q8.紛争の根本原因、根本的な解決手段をどのように考えているのでしょうか?
Q9.「人間の安全保障を重視しつつ」とあるが、具体的にはどのような意味ですか?
Q10.『緑の革命』の実現と農村の暮らしの向上」とあるが、過去の「緑の革命」の政策自体、問題があったのではないですか?
Q11.「アフリカン・ビレッジ・イニシアティヴ」とは具体的にはどのような構想なのですか?
Q12.アジアにおいて日本のODAの大きな割合が供与されたインフラ整備を通じ高い経済成長が達成されたと日本政府は強調していますが、マイナス面の考慮、また、アジアとアフリカの社会・文化・経済・政治面における違いについても考慮しているのでしょうか?
Q13.「戦後復興と発展に成功したアジアの経験は、現在我々がアフリカ開発に取り組む上で、貴重な財産であり」と、誰が判断しているのですか?アジアの人びとは幸せになれたのですか?

Q1.TICADって何でしょうか?また、TICADの経験って何ですか?

 TICADとは、アフリカ開発会議:Tokyo International Conference of African Development(TICAD)です。(正式な説明は、こちらで。)アフリカ大陸が、植民地支配や白人少数者支配から脱するために努力を最大化させていた60年代から90年代にかけての時期は、冷戦期下にありました。日米同盟を重視していた日本は、アメリカの外交政策に追従し、社会主義あるいは共産主義の傾向を帯びたアフリカ諸国には距離を置き、合衆国と同様、アフリカの親米独裁政権を支えてきました。日本は、アパルトヘイト体制下にあり、経済制裁を受けていた南アフリカに対して最大の貿易国でもありました。つまり、日本はアフリカの大多数の人々の自由を支えては来なかったのです。しかし、日本は、冷戦の終焉、アパルトヘイトの終焉という90年代初頭の国際情勢およびアフリカ情勢の激変と、経済分野における世界第一の位置の獲得という変化を受けて、従来のアフリカ政策の変更を模索しはじめたのです。この時期には、グローバル・パワーとしての自覚と世界における「正統な位置」を探求する動きが進みました。ここから、国連の安全保障委員会において常任理事国になりたいという動きが、特に外務省関係者の中で盛り上がりました。そのためには、国連総会の191票の内53票を占めるアフリカ諸国との良好な関係が不可欠となったわけです。(この動きは、7月のAUとの出来事を振り返ればはっきりすると思います。)
 これまでの伝統的ドナー(旧植民地宗主国やアメリカ、東側諸国)が、冷戦の終焉の中で焦点を東欧にむけざるを得ず、「アフリカへの援助づかれ」の傾向が出ていたこともあり、日本は金額では世界第一のドナーとしての存在感を誇示する必要もありました。そこで1993年に開催されたのが、TICADでした。これは、1回限りの「国際」会議を意図されたものでしたが、現在まで3回(1993年、1998年、2003年)開催されています。しかし、上記の日本政府の政治的野心のために開催されていることもあり、市民社会の参加はあくまでも「オブザーバー」的なものであるばかりでなく、国連機関や世銀が共催者とされているにもかかわらず、日本政府によるアフリカ外交のための「国際ショー」的な会議となっています。「アフリカ開発の会議」というよりも、日本政府とアフリカ元首+一部の国際機関との外交の場であります。
  
  TICADの経験というのは、何を指しているのかは明確ではありません。ただし、アフリカ諸国と日本の関係がTICADの開催によって幾分良くなったということは言えるでしょう。ただし、会議の主要目的であったはずのアフリカ開発については、特に何か目新しい成果をあげたわけではありません。それは、この会議が市民社会に対してクローズドであること、真の主催者である日本の対アフリカ政策や援助の評価や検討の場ではないということと関わっています。その点で、英国「コミッション・フォー・アフリカ」の動きと大きく異なっています。

 市民社会がTICADの経験から学ぶべきことがあるとしたら、
(1) 日本政府のアフリカ開発の意図やイメージが「外交」を中心とするものであり、その範囲に留まっていること。
(2) 開発や外交が「政府間」のものであるという信念。
(3) オーナーシップといいながら、AUが共催者ではないこと。
(4) 他の国際会議とは全く異なり、市民社会の参加はほとんど配慮も重視もされていないこと。
(5) 会議開催の意義が明確ではなく、その前段階の各ステークホールだー間の議論の積み上げさえされていないこと。

という以上の問題に対して、日本の市民社会こそが動かなければ変わらないだろうという点でしょう。

Q2.「オーナ-シップ」は「自助努力」というよりも民衆や市民社会の参加という考え方が中心になるのではないでしょうか?

 アフリカ開発の主要アクターはアフリカ政府のみでしょうか?開発によって直接裨益するのもダメージを受けるのも草の根の人々ではないでしょうか?アフリカ開発はそもそも何のために行われるべきものでしょうか?権力を有する者がますます富むためでしょうか?貧困に喘ぐ人々の生活が改善されるためにではないでしょうか?オーナーシップとは、開発と発展の当事者が、その努力プロセスにおいて「オーナー(主役)」になるということではないでしょうか?現在の開発潮流においては、「オーナーシップ」とは単なる「所有者」という意味ではなく、「自らが主人公になる」という意味が含まれており、計画から決定、継続において権利を有するとともに、責任を負うということであると考えます。とすると、ドナーが「オーナーシップ」という際には、アフリカの開発と発展のためには、アフリカ諸政府が「オーナー」となるだけでなく、草の根の人々の「オーナーシップ」が保障されることが不可欠です。特に、国家権力が狭い基盤しか有さず、経済利権が密接につながり、開発において市民社会の参加がなかなか難しいアフリカにおいては、安易に「オーナーシップ=アフリカ諸政府の自助努力」とすることは政治的暴力促進にさえつながりかねません。ドナーとしては、この「オーナーシップ」に、下からの「オーナーシップ」の重要視し、民衆や市民社会の参加が確実になるように働きかけることです。

Q3.このメッセージはアフリカの誰に向けたものでしょうか?また、誰がこのメッセージで幸せになれるのでしょうか?

 これはG8サミットで日本が発表した宣言です。ですので、一義的にはG8諸国です。もちろんG8の動向は、国際的な関心を集めているので世界中がこのメッセージに関心を寄せることになります。また、今回のG8は、アフリカ支援が重要な議題のひとつでしたから、アフリカ諸国が関心を寄せていることは間違いありません。そして日本語で書いているので、日本の市民に向けて、日本はこういうことをすることにしましたという説明の文書でもあります。しかし、こうした表向きの位置付けとは別に、今回は日本が国連の安全保障理事会の常任理事国になれるかどうかという年で、常任理事国にふさわしい国かどうかをアピールしなければならないという状況にあることを見れば、明らかに日本の常任理事国入りに影響を与える国々、すなわち米国や他のG8、そして大きな票田であるアフリカ諸国に向けたものであることは明らかです。

Q4.我が国にふさわしい十分なODAの水準」とは具体的にどのような水準なのですか?また、「ODA事業量の戦略的拡充」とは具体的にどのようなことを言っているのですか?

 「事業量の戦略的拡充」とは、外務省の高官自身も言っていますが、典型的な官僚用語です。日本は長引く経済不況と膨大な国債問題の解決を目的として財政改革を進める「骨太の方針」を重視しています。財務省はこれ以上の一般会計からの歳出を制限する強硬な姿勢でいます。しかし、外務省は安保理入りをねらう中で、これ以上のODAの削減は避けたいばかりでなく、できるだけ増額姿勢をG8で打ち出したいと考えていました。そのため、財務省と外務省の間でサミット直前まで激しいつばぜり合いが続いていたのです。「事業量の戦略的拡大」は、財政難と国際社会へのアピールの両方を満たす妥協の産物として生まれた官僚用語なのです。つまり、実質的には財政に大きな負担を与えることなく、対外的にはODAを増額するように見せかける言葉として生み出された新しい表現です。具体的には、シーリングが抑えられている一般会計には負担をかけない形で、円借款や債務・貿易保険の求債権の放棄など“ODA的な支出”で100億ドルを満たそうとしています。例えば、日本は湾岸戦争前、イラクに進出した企業にかけた貿易保険のうち既に企業に支払いイラク政府に求債権として約8000億円(80億ドル)ありますが、その80%を帳消しにする案が出ています。加えて、ナイジェリアへの同じ貿易保険の求債権の放棄と円借款案件の策定によって、直接的に一般会計に負担を与えない形で100億ドルを捻出することができるのです。これが、「事業量の戦略的拡大」の本当の意味です。また、5年間で100億ドルの増額ですから、年間で約20億ドル。これを円借款で充当しようとすれば、それほど難しい話ではないと財務省は計算したのかも知れません。一方、「我が国にふさわしい十分なODAの水準」というのも、不明瞭です。しかし、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」(骨太の方針)第五弾の最終原案の中で、政府開発援助(ODA)の目指す水準として、「国民総所得(GNI)比0・7%」とすることを明記することになったので、いつの達成を目指すのかは不明ですが、それを到達目標、すなわち「我が国にふさわしい十分なODAの水準」についての公式な回答になるのだと思います。

Q5.債務削減することによって貧困削減は本当に可能なのですか?

 多額の債務を抱えた貧しい国ぐには、限られた予算を国内の教育や医療に充てるよりも、豊かな国ぐにや国際機関への債務支払いを優先しなければなりません。また、貧困削減のため先進国から受けた新規援助を、債務返済に回す危険性も非常に高いのです。そのため、債務削減を実施することが貧困削減の大前提として必要となります。
また、債務返済の負担を軽くすることよって、削られてきた教育や保健医療などの社会サービスに、予算を充当することができます。すでに債務削減を受けたいくつかの国では、債務削減によって生じた資金のうち、約40%が教育に、約25%が保健医療に充てられており、アフリカの10ヶ国に対する調査でも、教育・保健医療への支出に明らかな伸びが見られました(UNDP『人間開発報告書2004』)。社会サービスに必要な資金がこれ以上削られないためにも、債務削減の実行を、より迅速に、より広範に行うことが求められています。
また、債務削減によって浮いた資金が貧困削減に正しく使われるためには、債務国の人びと自身がその使途を決定する権利を持つことが重要です。途上国政府の汚職や、債権者である先進国政府・国際機関の思惑・意図によって、資金使途が左右され、無駄に使われることを防ぐためです。そのためにも、使途決定のプロセスに債権国/機関・債務国だけではなく双方の市民社会が参加することが、透明性を高めるために重要です。

Q6.マラリア対策に「殺虫剤が浸漬した蚊帳の配布」とありますが、殺虫剤の安全性に問題はないのでしょうか?

 公式には安全とされています。しかし、危険を知らないアフリカの子どもたちが、この蚊帳に触れたまま眠らないという保障はありません。そもそも、なぜこの蚊帳には薬剤が浸されているのでしょうか?この蚊帳の特徴は網目が非常に粗く、蚊が簡単に出入りできる点です。それを避けるために、薬剤が使われているわけです。つまり、網目が非常に細かい蚊帳を作れば、確実に蚊の侵入は避けられる上、身体に触れても安全なわけです。実際、そのような蚊帳は欧州で多数売られています。何故、生産プロセスに環境汚染が伴い、扱い方によっては低濃度であっても人体汚染の危険があるものを、高いお金をかけて配布しなければならないのでしょうか?一企業のみが生産しているという商品を大量し購入し配布することになっていますが、その利潤はどうなっているのでしょうか?また今配布したところで、10年後はどうでしょうか?人々は自分でこの殺虫剤に浸した蚊帳を購入し続けなければならないのでしょうか?受け取れない人々はどうするのでしょうか?

地元の環境・健康・経済の持続可能性を考えれば、簡単に生産が可能と考えられる目の細かい蚊帳の現地生産を奨励すべきではなかったでしょうか?これだけの巨額を現地の小規模生産に投資できたら、単なる物の配布(モノからモノ)を超えた総合的なよい影響が作りえたのではないでしょうか?

蚊帳だけではマラリアは防げません。夜に水のある場所(トイレなど)に近づくことから感染する場合が多いのです。そのためには、保険衛生機関が人々のすぐ身近な場所で設置され、この問題のルートコーズを住民自らが考えたい策をこうじる機会を増やし、水関連施設が改善されることが不可欠です。

マラリアは簡単に治療が可能な病気です。しかし、教育と施設、お金の不備から、死にいたる病気となっているので。その意味でも、蚊帳の地元生産に投資をして、人々に仕事を与え、蚊帳を人々の手に身近なものとし、地元経済が活性化することが必要です。

Q7.当面の5億ドルとは総額50億ドルのうちの5億ドルですか?

 確認が必要ですが、文書を文字通り読む限り、別なもののように思われます。50億ドルというのは、「保健と開発に関するイニシアティブ」に向けられたものです。これは2000年の九州・沖縄サミットの際に発表された「沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)」が2003年度までの4年間の実績で既に40億ドル超の協力を実施した(表明額は5年間で30億ドル)ことを踏まえ、今年6月の「保健関連MDGsに関するアジア太平洋ハイレベル・フォーラム」で「新たに保健MDGs達成に向けた協力を一層拡充していく考え」として表明されたものです。そして、その内訳概要としては、MDGsの目標毎に書かれた取り組み内容を見る限り、特にHIV/エイズを対象とする目標6に関連する表記では、人材育成支援やコンドーム供与、自発的検査とカウンセリングの普及などの項目で書かれていて、「世界エイズ・結核・マラリア対策基金への拠出」という言葉は出てきません。しかし、資金経由先のひとつとして「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」が想定されているのかも分からないので、外務省に詳細を問う必要があります。

Q8.紛争の根本原因、根本的な解決手段をどのように考えているのでしょうか?

 私たちも同じ質問をNGO外務省定期協議の中で、これまで何度も問うてきましたが、まだ明確な回答を頂いたことがありません。憶測にはなりますが、恐らく外務省に明確なビジョンなり戦略がないものと思われます。あるいは、他局(経済協力局以外)にあるのかも分かりませんが、それも不明瞭です。外務省の中で統一見解がないばかりでなく、内閣府や援助実施機関であるJICAやJBICも独自に平和構築について調査研究するなど、それぞれの組織の思惑や期待の中で解決手段を考えているため日本政府として統一した考えは導き出せていないのでしょう。しかし、9月の国連総会は「平和」「開発」「人権」それぞれの連関性に焦点を当てて各国が方針を提示することになっているので、ここで何か出てくるかも知れません。

Q9.「人間の安全保障を重視しつつ」とあるが、具体的にはどのような意味ですか?

 「人間の安全保障」は、新ODA大綱(2003年8月)で基本方針の一つとして定められ、紛争に関しては「復興・開発に至るあらゆる段階において、尊厳ある人生を可能ならしめるよう、個人の保護と能力強化のための協力を行なう」と述べられています。女性、子ども、貧困層といった最も弱い立場の人びとを最優先に脅威から保護し、ひとりひとりが恐怖や欠乏から自由となり人間らしい暮らしを営められるよう力をつけることを意味しています。しかし、現実には政治、社会、経済、文化的な違いにより差別され抑圧される人びとがおり、こうしたことが生じないよう監視していく必要があります。また、武装解除や武器回収といった軍事との境界があいまいな部分、あるいは政治的社会的背景を無視したまま紛争当事者の一方に対する力の行使になりかねない側面があることにも注視していく必要があります。
 また、介入・援助する側は、自由市場、自由貿易を通じた経済成長やガバナンスの強化によって紛争やテロが防げるといった短絡的に考える風潮がありますが、基本的な法秩序が執行されず、多くの人びとが経済的に周縁化され、政治的に従属させられているという根本問題についてどのように解決できるかを当事者の民衆や市民社会が参加しながら取り組んでいく必要があると思います。

Q10.『緑の革命』の実現と農村の暮らしの向上」とあるが、過去の「緑の革命」の政策自体、問題があったのではないですか?

 1966年にフィリピンの国際稲研究所(IRRI)で稲の高収量品種(より多くの収穫を得られるよう改良された品種)が開発されて以降、アジアの多くの国ぐにでは、そのあたらしい品種を普及させ、化学肥料や農薬を多く投入し、かんがい設備の改善や農業機械の使用などによって、米の生産性を高め、稲作の近代化を実現しようとする政策が実施されました。このことは一般に「緑の革命」と呼ばれています。こうした「緑の革命」により、特定の作物の生産量が一時的に増加した一方で、長い間それぞれの地域で培われてきた多様な農業が失われ、生態系へも負担を強いるようになりました。また化学肥料や農薬、機械などへの依存が高まり、それらを購入するための借金に苦しむ農民も生まれました。インドネシアなどでは農業の商業化が進むことによって、貧富の差がさらに広がるといった問題も生じています。

Q11.「アフリカン・ビレッジ・イニシアティヴ」とは具体的にはどのような構想なのですか?

 これも詳細は外務省に尋ねないと分かりません。但し、2005年4月19日に国連の第27回情報委員会での演説の中で、安保理常任理事国入りをねらう日本としてのアピールの一つとして大嶋英一国連代表部公使が説明している箇所があります。次のように述べています。「我々はミレニアム・プロジェクト報告書が人間中心の開発戦略に立脚していることを歓迎します。MDGsは、安定に対する様々な脅威から人々を「保護」するのみならず、人々が自らの力で脅威に対処できるよう人間一人ひとりの「能力強化」を行うことによって初めて達成されます。これはまさに我が国が推進する「人間の安全保障」とも軌を一にするアプローチです。また我が国は「国づくりは人づくりから始まる」と考え、基礎インフラへの支援とともに、教育・人材育成への支援を重視してきました。「人づくり」を進めることは、健全なオーナーシップを育てる上で極めて重要です。この点で、我が国は、「アフリカン・ビレッジ・イニシアティヴ」を提唱しています。これはコミュニティのニーズに応じて例えば学校建設と同時に井戸の掘削や学校給食の提供、地域社会全体を対象とした保健サービスの提供などの支援を分野横断的に組み合わせて行うことにより、学校を核としたコミュニティ全体の能力強化を図るものです。コミュニティ内に井戸を掘削することにより、少なからぬ子供達は遠くの井戸へ水汲みに行く日常の仕事から解放され学校に行ける時間ができます。学校給食の提供により子供の栄養状態が良くなるのみならず、貧しい家の子供は学校給食の食べ残しを家に持ち帰るようになり、家族が子供を学校に通わせるインセンティヴが働くようになります」。この説明を読む限り、非常に好ましい取り組みに見えますが、このようなモデル・ケースが期待通りいくかどうかは、必ずしも楽観視できません。学校と村の距離や学校給食を保証する行政能力、そして涸れない井戸の確保や水管理をコミュニティでジェンダーに配慮しながらどのように進めるのかなど様々な要件を満たす必要があります。また、このイニシアティヴをコーディネートできる優秀な現地の人材も必要でしょう。また、このようなモデルが機能しない場所や地域にこそ、深刻な問題があることを忘れてはいけません。モデル・アプローチには限界があるのです。

Q12.アジアにおいて日本のODAの大きな割合が供与されたインフラ整備を通じ高い経済成長が達成されたと日本政府は強調していますが、マイナス面の考慮、また、アジアとアフリカの社会・文化・経済・政治面における違いについても考慮しているのでしょうか?

 日本政府はMDG達成のアプローチとして「経済成長による貧困削減」、特にアフリカについては「アジアの経験をアフリカに伝える」ことを主張しています。確かに、東アジアでは高い経済成長が長期にわたって続き、貧困層の割合は他の地域と比べて顕著に減少しましたが、所得格差は拡大傾向にありますし、女性・子どもや環境面をはじめとして人間的発展や永続可能な発展からみると問題が残っています。また、自由化を背景とした経済成長は貧困層にとって大きなリスクを伴うもので、「アジア危機」で最も打撃を受けたのは貧困層でした。さらに、インフラ整備は経済成長のための一要件に過ぎず、しかも深刻な環境・社会影響が生じ、生計手段や生活の場を奪われ、困窮している人びとが多数存在します。

 また、「経験を伝える」と言う前に、まず、アジアとアフリカの相異についてきちんと把握することから始める必要があるのではないでしょうか。例えば、伝統的な農業生産では一種類の作物の生産高をあげる「豊作」というよりは多様な作物がまんべんなく生産される「満作」に重点が置かれるようですし、生産の分配も社会関係に基づく平等かつ互酬性が強いようです。アグリビジネスや農産加工といったビジネスが拡大していけば、社会に根付いていたこれらの「安全弁」が壊れることも考えられます。「人間の安全保障」の観点からも、こうした点へへの配慮をしなければなりません。

Q13.「戦後復興と発展に成功したアジアの経験は、現在我々がアフリカ開発に取り組む上で、貴重な財産であり」と、誰が判断しているのですか?アジアの人びとは幸せになれたのですか?

 もちろん判断しているのは、日本政府です。確かに日本は先進国と呼ばれるようになりましたし、東アジアや東南アジア一部諸国の高い経済成長の持続は世界銀行から「東アジアの奇跡」と呼ばれました。教育・保健などの充実、農地改革などの一連の社会改革を通じて人間的発展や公平・公正面の改善が行なわれたことが基礎になっていることは忘れていけませんし、他方で高度経済成長に伴う公害や強制立ち退きなど大きな負の経験は続いており、「アジア危機」により貧困層や社会的弱者が最も大きな影響を被ったのも事実です。「貴重な財産」というなら光の部分だけでなく影の部分も等しく共有することが重要だと思います。「幸せ」かどうかは、経済指標だけでは測れませんので、アジアやアフリカの人びと、特に弱い立場に置かれた人たちにとって何が「幸せ」か、「不安」かについて聞くことから始めることが重要だと思います。アジア通貨危機への対応についてNGOは、97年に財務省NGO定期協議において意見交換を行っています。
 また、現在の研修は主に専門家が官僚を対象に行なっているようで、農業プロジェクトでありながら主体となる農民は一人もおらず、場所もビルの中の一室で農場ではないといった例もあり、実際にどれだけ効果があるのか疑わしい点もあります。「誰のために」、「なぜ」支援をするのか、「実際にどのような効果、影響が生じているのか」という視点からチェックする必要があると思います。

投稿者 oda_net : 10:29 | コメント (0)